白井監督が叫ぶや否や、東久西中第二サッカー部のイレブンの体に、異変が起こり始めた。
チーム一の長身フォワード、来布石の体は巨大な花弁に包まれ、毒々しい真紅に染まりはじめた。
ボランチの双葉兄弟は、全身が緑色を帯びると同時に、それぞれの右手と左手が、鋭利な刃状の棘を帯びた葉のような姿に変わっていた。
攻撃的な位置にいた大麻原の体は、白い粉末に覆われ、逆サイドの漆岳は逆に、光沢を帯びた黒色の体へと変化した。
サイドバックの飛綿の体には、びっしりとした羽毛のような毛が生えつくしていた。
逆のサイドの菱形の体からは、巨大な突起が複数飛び出していた。
センターバックの竹原のシルエットは、関節が異様な節のような姿に変わっているのが見て取れた。
その向こう側、キャプテンの宇壷は、背中に巨大な煙突状の突起を生やしていた。
最後方に控えるゴールキーパーの蔓山の体からは、おびただしい数の触手のようなものが生え、それぞれがうねうねと、蛇のようにうごめいていた。
気がつけば、花咲を除いた選手が一様に、異様な姿へと変貌を遂げていた。
「雷門中、みなさんのがんばり過ぎです。われわれの真の姿、ここまで早くお見せすることになろうとは思いませんでしたよ」
仮面の下の白井監督の笑い顔は、試合前の恵比須顔とは程遠い、悪鬼にも似た相貌へと変化していた。
「白井監督、それは一体どういう意味ですか?」
円堂の問いかけに対し、白井監督の高笑いはいっそう大きくなった。
「否、わが名はシュライク!数多の世界をめぐり、今、この世界に変革をもたらす真実の『革命家』、それが!私!!」
真の姿を現した白井監督……否、シュライク監督の言葉に、一同は愕然とした。
《ひ、東久西中……選手が変身したぁぁぁ!!前代未聞、驚天動地!!雷門中の歴史を紐解いても、これほどの出来事はありませーん!!!
し、しかも、白井監督……いや、シュライク監督の口からは、真の革命宣言まで飛び出した〜!!!?》
「そうです!私たちがなすのは「本当のサッカーを取り戻す」などという次元の低い革命ごっこではない!
選ばれしもののみが叩き、開くことの出来る扉……その扉を開けられるわれわれに、全世界の人類はひざまずく!!
そのことを世界に向けて宣誓するために、世界の象徴たるスポーツである、サッカーを利用させてもらったのです!!」
「その、真実の革命をなしとげるものたち……わがチームの名は、『インフェルナル・ノッカーズ』!!!」
「インフェルナル……ノッカーズ……!
このチームに、帝国は大敗したのか……!!」
鬼道の頬に、一筋の汗が流れた。
円堂はただだまって、ことの成り行きを見ていた。
「ククク……恐ろしさのあまり、声も出ませんか。
ですが、これで終わりではありません。今こそ、このスタジアムの『真の姿』をお見せしよう!」
そう言って、シュライク監督は天を仰いだ。
すると、スタジアム上空ににわかに暗雲が立ち込め、その雲のさらに上空から、巨大な扉が姿を現した。
「な、なんだあれは!」
「ちぃ……どうやらやっこさん、そうとう派手な演出を用意していたようだ」
ウサ探が舌打ちし、渋い表情(ただし見た目ぬいぐるみ)をした。
その扉が開き、屋根のように校舎に覆いかぶさった。
すると校舎はスタジアムの客席のように姿を変え、そして、そこには試合を珍しげに見ていたはずの生徒の姿はなく、みな、人外の異形の姿へと変わっていた。
「これこそがこのスタジアムの真の姿……ノッカーズ・エデン・スタジアム!
このスタジアムに足を踏み入れたのは、皆さんが初めてです」
「ち、ちょっと……なんなのこれ」
「おい茜、写真撮ってんじゃねえ!空気読め!」
「で、でも……こんなことめったにないし」
ベンチに控えるマネージャーたちは、この変化に浮き足立っていた。
「兄さん、監督、この試合……棄権しましょう!このままではみんなが危ないわ?」
音無が提案したが、それはウサ探によって否定されることとなった。
「そうさせてやりたいのはやまやまだがな、あのシュライクとかいう監督、ただで返すことはしないだろうぜ」
「その通りです。皆さんにはこれまでの「実験」と異なり、われわれの記憶をしっかりと残していただきます
絶望的な敗北とともに、ね」
「帝国サッカー部に練習試合の記憶がなかったのは、単にダメージが深いだけではなかったのか!」
鬼道は焦燥の色を隠せずに叫んだ。
「そうです。もっとも、真相意識にかすかに残っていたものもいたようですが。それはいいでしょう。
それに、心配することはありません。あくまでわれわれはサッカーで勝負するのです。純粋にね。受けていただければ、の話ですが」
「その言葉、信じていいのか」
「円堂!」
毅然とした態度を崩さない円堂の言葉に、鬼道は少なからず驚いていた。
ウサ探が小さく「ほぉ」と感心したような声を上げたことには、気づかなかった。
「もちろんです。いや、サッカーの試合でなければ意味がないのですよ。あなた方が標榜する革命の志、それをくじき、新たな旗頭にすることが、この試合の目的なのですから」
雷門イレブンの目がいっせいに円堂に注がれた。
少しの間、円堂は目を閉じた。
そして目を開くと、試合前と変わらない、力強い声で叫んだ。
「いいか、俺たちの革命はこんなところでは終われない!
誰が相手でも、どんな相手でも、俺たちがやることは一つだ。
いつものサッカーをやろう!そして、勝つんだ!!」
「わかりました。いいかみんな、どんな相手でもベストを尽くそう!」
円堂、そして神童の言葉に鼓舞されたイレブンは、不安こそ隠しきれないものの、それでも戦う姿勢は捨てずに、ポジションについた。
シュライク監督の仮面の下の目が光った。
(さすがです、雷門。さすがです、円堂監督。そうこなくては、ね)
様相を一変したこの試合、インフェルナル・ノッカーズのキックオフで、試合は再開した。
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