「ここで私が書くべきことはもうないでしょう」と筆者がここに書き込んだのは、つい数日前。それがこんな形で破られることになろうとは、全く予想していませんでした。
筆者の部屋にはCDが800タイトルほど散乱しています。うち半分が純粋なクラシック、残りのうちの半分がセミクラシックと器楽アンサンブル、そのさらに半分強がジャズとエスニック、その他の音楽全ては最後の1/8に集約されます。アニメのCDはちょうど20タイトル。これだけたくさんアニメを見てきたわりには、CDを買ってまで聞き込んでみようという音楽に出会うことは、滅多にありません。言い換えると、CDを持っている作品は、私にとってはとても大切なものです。
私が社会人になって新作アニメのCDを初めて買ったのは、「ストレンジドーン」の音楽、とりわけOPテーマ曲がきっかけでした。あの透明感あふれる、かつ力強さを合わせ持った不思議な歌声に、一度聞いただけですっかり虜になってしまいました。しかも、歌唱の実力もすばらしい。この曲はちゃんと聴いてみる価値がありそうだ。そう考えた私は、勇気を奮って生まれて初めてアニメショップに行って、この作品のBGMを買いました(マイナーな作品だったので、普通のCDショップでは売っていなかったのです)。
この作品のOPテーマ曲「空へ」を歌ったのは、河井英里さん。当時、私はどんな方かもよく存じ上げなかったのですが、最近では「ARIA」シリーズでアテナが歌うカンツォーネ(もどき)などが印象的でした。クレヨンしんちゃんなどでも、いろいろと活躍されているようです。
既に報道されているとおり、河井さんは先日(8月4日)逝去されました。享年43。数日後、新聞の片隅の小さな訃報を見つけた私は、自分の目を疑ってしまいました。
私はこの方のファンだったというわけではありません。でも、「空へ」で
♪夢の続き追いかけて 失くすものはなに
傷ついても探してる 私の未来へ 羽ばたける翼がほしい
と歌う時の、あの空の高みへとどこまでも駆け上っていくような、まっすぐで凛とした歌声は、アニメソングという範疇を超えて、豊かな音楽として私の心を幸せにしてくれました。もう、あのすばらしい歌唱を聴くことがないのかと思うと、とても悲しく感じます。そういえば、アテナの2曲目では明らかに声の支えが衰えていて、あれ、ちょっと体調が悪いのかな? と気になったのですが、もしもその頃から病魔と闘っていたとしたら…。
今頃はどこか空の高いところで、自分の音楽を楽しんでいるのでしょうか。時には「空へ」を、あの伸びやかな歌声で歌ってほしいものです。ひょっとすると下界にまで響いてこないとも限りませんし。
河井英里さんは、私にアニメの音楽(の楽しみ方)を再発見させるきっかけを作ってくれました。心からご冥福をお祈り申し上げます。ありがとうございました。