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希林館通り


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読み仮名: きりんかんどおり / 英語タイトル: KIRINKAN Street(KIRINKAN Doori)

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2008/07/19 とても良い [編集・削除/削除・改善提案/論客限定表示/]
by えぼだいのひらき 評価履歴[良い:119(71%) 普通:36(22%) 悪い:12(7%)] / プロバイダー: 1434 ホスト:1325 ブラウザー: 9646
連載期間中、ほぼ毎回トップのアンケート結果が示す通り、素晴らしい作品だと思います。
少女漫画にはよくある題材でありながら、複雑な心理描写を上手に取り込んでおり、加えて、今は存在しなくなってしまった少女漫画の「週刊連載」と云う立場でありながら、あれ程美しく完成度の高い原稿を提供し続けた功績は賛美に値します。手抜きの仕事に苦言を呈する読者はいても、丁寧な仕事に不快感を表す読者はおそらくいない事でしょう。
後に、作者は「あの時の、がむしゃらな時期だった(=若かった)からこそ描けた」と語っていらっしゃいましたが、作品がヒットした事で、どんどん自分を取り巻く環境が変わって行く様を上手に主人公の花梨に反映させていらしたのでは?と思える程のリアルな心理描写には「巧いな〜」と思う事が度々ありました。現在は活躍の場をレディースコミックスに移していらっしゃいますが、「4人の息子の母」の立場になられても丁寧な作風は変わらず、これこそ「プロ」と云うお仕事をなさる貴重な方です。
本作は、そんな作者の少女漫画時代の代表作品です。

10代の学生と、20代の社会人の、恋愛や結婚に対する考え方は、全く違います。その愛情が例え偽りのない本当のものであったとしても、事「結婚」においてはその「時期」と云うのは極めて重要なポイントとなります。
本作は、漠然と憧れの存在と考えていた担任の塩崎先生から突然プロポーズされてしまった高校生の花梨が、様々な問題をクリアしつつ、成長して行く物語です。

女の子は古今東西往々にして、憧れの対象が出来ると「きゃーっ!!○○くん、カッコイイ。素敵〜!!結婚して〜!!」等と言いがちです(笑)。でもこれは、「結婚」についてきちんと考えて言っているのではなく、漠然としたイメージとして只単に憧れを抱いているだけであって、罪のない言動だと言えると思います。本作の主人公の花梨も、どこにでもいる様な極々普通の高校生で、作家である母親が女手1つで育てた3人姉妹の中間子であり、自宅が貧乏学生相手の下宿屋である事から、むさ苦しい男の実態をまざまざと見せ付けられる生活を送っていました。
そんな彼女の高校生活の生き甲斐は、校内一の人気を誇る担任の塩崎先生の存在でした。はねっかえりの彼女も、最初は先生に少しでもよく思われたい・・・そして、ちょっぴり自分だけは特別な存在でありたい・・・と願うその他大勢の内の1人だったのです。

しかし、塩崎が後輩の高広の下宿先として、花梨に相談を持ちかけた事から、次第に彼女はその他大勢の中から首一つ抜けた存在となります。
そして自分の将来について色々と悩んでいた時、唐突に・・・・本当に突然、職員室で塩崎からプロボーズされてしまうのです。それも、教師を辞め、歴史研究者に戻る為、京都へ行こうとしている自分に付いて来て貰いたいと云う申し出に、花梨は即答する事が出来ません。
塩崎に対する恋心は疑う余地がない程、本当のものでした。
「でも、こんなはずじゃない・・・未だ結婚なんて考えられない・・・心の準備が出来ていない・・・」
そう、今迄のそれは「現実」ではなかったのです。

加えて、高校生の立場でプロポーズされてしまっただけでも充分悩むに値する出来事であるのに、継がなくてはならないかも知れない家業がある3姉妹と云う立場が尚一層花梨を悩ませる事になります。今時家長制度もありませんけれど、3人兄弟がいて、その中に1人でも男の子がいれば、おそらくその中の女の子が稼業と親の将来に対し、足枷の様な感覚を強く感じる事は少ないのではないかと思います。
しかし、離婚後女手1つで育ててくれた母、自分の感情に正直に生き、不倫の末単身子供を産もうとしている大学生の姉・棗(なつめ)、未だ高校1年生の妹・柚子・・・自分の肩に見えないモノの全てが覆い被さっている現実を振り切る事が出来ず、「今は未だ・・・」と、花梨は旅立つ塩崎を見送るのです。
別れる訳ではないのですけれど、実質の別れの様なこの部分は連載当時はちょっと理解出来ない感情だった(サラリーマンの子供には継ぐ稼業云々の感覚って解りません)のですけれど、親の今後を心配する年齢になってから再読すると、3姉妹の感情が痛い程解る様に思いましたし、同時に自分の元から子供を送り出そうとしている時の母親の気持ちが強がりだけではないって事も本当によく解り、何とも切ない気持ちになりました。

その後、高校を卒業した花梨は、母親のツテで小さな出版社に就職し、社会人として今度は現実の「恋」と向き合う事になります。
塩崎の過去の恋の存在に心を乱し、上司である朝倉の強引とも思える傍に居る存在の大きさに心が揺れ・・・と、流石にドラマティック過ぎる展開には少々「うへぇ〜」って所もありますけれど、でも、これこそが少女漫画の醍醐味ですので、こう云う部分がなくなってしまっては作品自体の魅力がなくなってしまいますから、この部分をどうこう言う必要はないでしょう。
花梨は、様々な葛藤を1つ1つクリアして行きながら、最後には最もシンプルな「愛しているからどんな事があっても、先生と共に人生を歩んで行きたい」と云う思いに忠実に渡米する塩崎に付いて行く決心をするのです。社会人としての経験を積む事により、徐々に周囲が見えて来ると云う描き方はとても巧いなぁと思いました。
そして、全てがうまく収まったかに見える些かアッサリ過ぎる結末の中、親が倒れたのを機に自分の実力に見切りを付け、ひっそりと夢に終止符を打つ松さんの存在が、妙に心に残りました。

一方、個人的には最終的に柚子を選んだ高広が不憫で仕方がありませんでした。
花梨は高広が自分に想いを寄せている事は知っていましたが、高広に想いを寄せる柚子の気持ちを思いやってか真剣に彼と向き合おうとする姿勢は見せず、高広は最初から相手にされていない様な所がありましたから、何処か心を押し込めた様な所があったのがとても気になりました。
後に発表された続編では、元気にそれなりに幸せな家庭を築く花梨や、1人で逞しく生きる姉の棗とは対照的に、高広との不和に悩む柚子の姿が描かれています。実際にそれが描かれてしまった事が何とも哀しく、人気作品は往々にして「続編を・・・」と望まれる事が多いモノですが、作品って余韻を残したまま終わらす方が良いな〜とつくづく思いました。続編の出来が悪かったと云うのではなく、本作においては描くべきじゃなかったんじゃないかって気がしました。

人を愛する事に明確に正しい時期ってないでしょうし、法律的になんの支障もなければ結婚もどの時期でも構わないとは思います。
でも、現実に押し潰されない結婚を望むなら、やはり時期ってある様に思うのです。
「結婚の為に自分の夢を犠牲にしてない?」
「結婚の為に自分の可能性を犠牲にしてない?」
おそらくこの部分で無理をしてしまったら、いつか必ず壁にぶつかってしまう様に感じるでしょう。少なくとも、学校をきちんと卒業して、仕事をして、社会と云うものをそれなりに知ってからであったなら、自分の限界も知る事が出来るでしょうから自ずと人間は多少の妥協は受け入れられるものです。
そう云う感情を上手に描く為に、主人公の年齢に高校2〜3年って時期を選んだのはとっても巧いと思います。花梨の設定が、高校1年生や大学4年生、又は社会人だったなら、ここ迄の話にはならなかったと思いますから・・・
「人生は長い。そんなに早く大人にならなくてもいいよ。でも、いつかその壁は自分で乗り越えなきゃね。」ってメッセージが何ともニクいです。右肩上がりの時期を、大切に大切に生きて貰いたいものだと思います。

もし、本作をお読みになって、作者の世界に魅力を感じられたのであれば、次は「闇を抱く森」と云う単行本の中に収録されている「初めてのデート」と云う短編作品も是非、ご覧になられてはいかがでしょうか。
おそらく妻であり母である作者自身の体験を元にアレンジされた作品なのでしょうけれど、同じ恋を描いた作品であっても、人間は時を重ねるとこれ程違う視点からの描き方が出来るのだなぁと、しみじみと感じられ、少女漫画からレディースコミックスに活躍の場を変えられても、才能のある方はどんな状況でもそれを余す事無く発揮出来るのだと、改めて驚かされました。
又、レディースコミックスと云うジャンルは連載作品よりも寧ろ短編作品の方が読み応えのあり、秀逸な物も少なくないので、皆さまも些か誇張された(不倫とかH三昧とかの愛憎ドロドロばっかり・・・って)イメージを取っ払って是非1度手に取ってみられてはいかがでしょうか?

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