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終末のフール


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読み仮名: しゅうまつのふーる / 英語タイトル: The fool of end (syuumatsu no fu-ru)

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[獲得推薦数:1] 2006/09/15 とても良い [編集・削除/削除・改善提案/論客限定表示/]
by 遠野 評価履歴[良い:241(100%) 普通:0(0%) 悪い:0(0%)] / プロバイダー: 7995 ホスト:8082 ブラウザー: 4184
3年後に小惑星の衝突を控えた地球――仙台北部の団地に住まう人々の生活を描いた、連作短編集です。
地球が、即ち自分が滅んでしまう、その衝撃と混乱から何とか抜け出し、けれど次に来る「直前の混乱」には、まだ暫しの間がある。
滅亡発表から、実際に滅亡するまでの中間点。そんな小休止のような、奇妙に穏やかな時間と日常の、ひとコマひとコマが、とても鮮明に描かれています。
平やかでありながら、虚脱と疲労が滲んだ筆が、とても優れてます。私自身は地球滅亡どころか、大きな自然災害にも遭ったことが無い人間ですが、住人ひとりひとりの在りように、強い説得力を感じました。
強かであり、和やかであり、虚無であり。さまざまなカラーも愉しい、読み応えのある一冊です。

表題作である「終末のフール」は、断絶状態にある父と娘の、再会の物語。
「3年後に世界が終わってしまう」という設定が、前面に押し出されることなく、けれど、生活に完全に根を張った形で生きている。そのバランスの取り方が、秀逸な作品です。
父親の業の深さに、ぞわりとさせられたり、過去のことだと認識しつつも、憤りを感じてしまったり。上手い具合に、感情を転がされてしまいました。
しかし本編で何より際立っていたのが、彼らの息子であり兄であり(不和の根底でもあり)、10年前に自死を遂げた青年のエピソードでした。矢印も魔物も、心がほわっとくすぐったくなる。この感覚を、親が分かってあげられないのは、不幸なことだよなあ、とも、思います。
余談ですが、父子の仲直りって、結構こんなものだったりするのですよね。少しだけ笑ってしまいました。

「鋼鉄のウール」は、ただ只管、格好良かった。ぐっと一本、筋の通った感があって、そこが何とも言えず、気持ちの良い編でもありました。
たった3人だけの、キックボクシングジムを舞台にした物語です。16歳の少年の、父母を厭う心と、ジムのキックボクサーに抱く、憧憬にも似た感情の混ざり方、表出が瑞々しくて、「何だか、いい」のですよね。
文章から浮き上がる、しなやかさや強靭さや、練習風景に走る、ぴりっとした緊張感、写真にまつわるエピソードにも惹かれます。
世界が終わりに近づいても、練習し続ける人たち。ストイックというか、混じりけの無い風なのが、良いなあ。
ラストの締め方も、前向きで力強くて、面白い。主人公の成長を思うと、ドキドキします。

「深海のポール」は、現役営業中のビデオショップの店長とその妻子、止む無い事情で同居する破目になった、父親の物語。
このお父さんが、良い味を出しているのです。終末に備えて、屋上にひとりで櫓を建設する、なんて発想が素晴らしい。変わり者なんだけれど、懐が深くて、不器用で、内側に独特の世界を持っていて、なんだか可愛い。
それにしても、屋上の櫓、資材を運ぶだけでも大変だろうに、凄いなあ。終末までに完成を見るのだろうか、と思ってしまいました。
世界の終わりの過ごし方について、思索を差し向けられるような、たよりなく拡がるような、曖昧なラストが印象的です。

個人的に「太陽のシール」における会話の妙や、「冬眠のガール」の主人公の、ふんわりとした切なさも気に入りです。「天体のヨール」のやりきれなさは、本作を確りと引き締めていたと思います。こちらも思わずのけぞってしまうような、「演劇のオール」も、好みだったなあ。

全編まんべんなく語り倒したい欲求に駆られた短編集は久しぶり。どっしり楽しめ、また、考えさせられた作品でした。
伊坂幸太郎の本はこれが一冊目。他作品にも、がぜん興味が沸きました。

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