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読み仮名: ぞうとみみなり / 英語タイトル: THE ELEPHANT AND THE TINNITUS (Zou to miminari)
2006/03/16 最高! [編集・削除/削除・改善提案/論客限定表示/]
by 遠野 評価履歴[良い:244(100%) 普通:0(0%) 悪い:0(0%)] / プロバイダー: 7995 ホスト:8074 ブラウザー: 4184
全12篇からなる成る、推理短編集。
元判事、関根多佳雄の生活や人生から書き起こされた、やわらかなテンポの文章は、読み易いけれど、決して平坦ではありません。各編に用いられたモチーフの織り込み方、時折挟まれる絵画的な表現が、著者特有の世界を構成しています。
理路整然としていながら、幻想的。茶碗や給水塔、推理小説など、筆の運びも美しく昇華されています。社会的なテーマに触れることもありながら、何処か懐かしくもあり、瑞々しくもあり。丁寧に造られた、秀逸な小説群です。
収録作品全てを語ってしまいたいのですが、長くなりすぎてしまうので敢えて自粛。
一本目の「曜変天目の夜」は、導入作品としては、些か地味な印象。しかし、主人公の記憶へと、読み手を引きずり込む手腕が鮮やかです。
出だしの一文が、様々なものを想起させる、という効果が、特に際立っていました。
謎が解けてゆく過程は気持ち良いけれど、同時に残る後味の悪さも癖になります。
これからの展開を期待、もしくは予感させる編でした。
表題作である「象と耳鳴り」も、寓話のような雰囲気と、薄く滲む毒の混ざり合いが程よい。只の不可思議な話に終わらず、きちんとした理論のもとに成り立っており、読後、唸らされました。
それにしても、「象が人を殺す」と云うイマジネーションは凄いなあ、と思ってしまいます。老婦人のゆったりとした語り口調とも相俟って、奇妙さが深まる感覚。
マスターのキャラクターも良い。最後に残された疑念が、これまた美しいのです。
「ニューメキシコの月」も、印象深い。安楽椅子探偵さながらの状況で、9人を殺した死刑確定囚の行動理由、また人そのものを解いてゆく一編です。
多くは語れませんが、凄く腑に落ちる物語でした。両サイドの人間の感情が、なんとなくでも分かってしまって、やりきれない。この死刑囚の内面を知りたい、読んでみたい、と思ってしまいました。
「机上の論理」のような、悪戯心に満ちた小編、「誰かに聞いた話」のような、和やかな展開かと思いきや実は……といった編も、味が有って面白い。
只、ラストに「魔術師」を持ってきているあたりが、恩田陸的。『どこか』を匂わす展開は、著者らしいといえばらしいのですが、終焉にひとつのしこりを残してしまっています。
都市伝説のくだりは、さり気なく怖い。落とし穴のような歪みに、ぞわっとします。
少し(?)特異で特別な人々の、日常が、鮮やかに描かれています。随所に施された仕掛けが心地よい。
物語を締める留め具を、あえてゆるめておいたり、ゴールにたどり着いたかと思えば、また新しい迷路が現れるような、読者をひとところに落ち着かせない造りの小説が、連なっています。
長編作品では戸惑ってしまう手法が、本作では全く気にならず、寧ろ気持ちよいです。
その他の短編集も読んで、著者は、長編よりも短編の方が綺麗で収まりの良い作品を書く、という印象を持ってしまいました。(とはいえ、収まり……というか、座り心地の悪さも、魅力であったりするのですが)
何はともあれ、収録された作品の全てが例に漏れず、高い質を誇っています。推理物としての正当な楽しみと、端麗な文章世界を一度に味わる良作、お勧めです。
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