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蚤と爆弾(小説)


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読み仮名: のみとばくだん / 英語タイトル: Flea and bomb
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2008/06/27 良い [編集・削除/削除・改善提案/論客限定表示/これだけ表示or共感/納得コメント投稿/]
by 634 評価履歴[良い:1397(50%) 普通:545(19%) 悪い:856(31%)] / プロバイダー: 10414 ホスト:10691 ブラウザー: 6342
日本陸軍が、ペストを生物兵器にして、ロシア軍に対抗しようとした事が描かれた作品で、非常に読んでいて、辛いものがありました。それはこの作品には、日本軍のおぞましい実態が浮かび上がってくるからです。

沢山のネズミと蚤を集めて養殖し、ペスト菌を繁殖させて蚤を通じてネズミに伝染させるのですが、その蚤やネズミにしても、ペスト菌にしても、繁殖させたり、伝染させたりする作業に付いても描かれていて、虫嫌い、病気嫌い、ネズミ嫌いの人だったら文章だけなので、幸いですが、実際見たら卒倒しそうな光景が作者の筆跡から伺えてきたのでした。

ネズミにしても、蚤にしても、集めるだけでなく、養殖していくというのには、「なんでこんなもんを・・・」と思うのですが、もしこんな事が実際に起こされていたら・・・と思うと、やはり背筋が寒くなるし、日本軍がこんな事やっていて、「やっぱり、大戦前の日本の頭はおかしかったんだ」という気持ちにさせられ、暗然としてきます。

そして、実験用サンプルとして中国人の捕虜が使われるのですが、蚤やネズミのターゲットにされ、病気を伝染される・・・というのには、凄まじい嫌悪感を感じたし、知られざる日本の戦争犯罪のようなものを感じたし、日本だけでなく、多くの国がこういった事をやってきたのかと思うと、人間の愚かさと共に、戦争という愚行に勝つために、あらゆる手段、それが後で後生から「愚かな・・・」と言われるものであっても、やらなければならない、絶対にやる!という具合に浮かび上がってきていて、滑稽に思う反面、人間はここまで愚かになることが出来るのだろうか・・・という負の側面がよく描かれており、細菌兵器に携わる学者であり、陸軍軍人の姿の愚かだけど、こういった方向に走ってしまったのは・・・というのが、作者特有の一歩下がった視点での記録文学で、学者、人間、軍人といういろいろな顔とジレンマが出てくるような感じだし、生々しいタッチで迫っていました。

中国人捕虜が実験に使われて殺されたり、軍の命令でどんどん生物兵器の道にのめり込んでいくのは、人間の愚かさと、歯止めできない欲求というものが見え隠れしてくるようだし、こういった事が戦争の本質の1つなのだという部分も見えてくると思います。戦争とは元来、そういった愚行の集積体と言ってもよいものだし。

しかし、幸運にも、これらの兵器は結局は実用化しませんでした。こういった対ロシア軍用の蚤爆弾にしても、米本土攻撃に使われた風船爆弾にしても、日本が大戦中にいろいろな兵器を作っては・・・という部分が出てくるように思います。そして、もしこの蚤爆弾が実用化されていたら、尚も戦争が続いて、日本という国が滅んだかもしれないし、我々も現在の姿で居られたか判らないし、そういった意味では、戦争というものが本当にいろいろな人達の運命を悪い方向に、悪い方向に向けさせていく・・・という部分が見えてくるようです。そんな戦争の愚かさが、蚤と病原体を使った爆弾を製造させる方向に向かっていく愚かさが現れていたように思います。

しかし、結局、いろいろな不具合が影響し、蚤爆弾は実用化されませんでしたが、もしこれが実際に戦中使われていたとしたら、日本は尚も戦争裁判でいろいろな罪が増えたり、無い罪をでっち上げられたのかも知れません。そんな実用化されなかったことが結果として・・・というところに、歴史の皮肉さのようなものを感じたし、こういった馬鹿なものは本当に作らないで欲しいと思いました。

とはいえ、現実世界でも未だに、こういったバイオ兵器のようなものが使われているのだし、いろいろな病気を戦略兵器として使おうなどと言う辺りに、こういったものの本当の怖さと恐ろしさがいろいろと見えてくるし、そういった時代だったのだと単純に片付けることが出来なかったようにも思います。そんな愚かな兵器、場合によっては、戦艦大和以上に役に立たなかった事を思えば、使われなくてよかったと何度も思ってしまいます。

本作のような生物兵器を・・・という作品はあまり多くは知りませんが、そんな生物兵器にされた蚤やネズミの悲劇が本作にあるし、現在は反捕鯨国の最右翼であるアメリカでさえも、こういった生物兵器を持っていたり、中にはイルカに爆弾を付けての・・・というものがあったのだし、戦争になれば、動物保護なんてものが・・・というのを逆説的とはいえ、突いていたように思います。

人間の愚かな戦争によって、絶滅したり、数が少なくなった動物も種類数が多いのだし、そんな愚かな実験に没頭する技術者や科学者の姿にはそういった戦争の負の面が判らないようにすら思えてきます。

蚤やシラミが、世界中で衛生害虫に入っている問題を突いていて、こういった蚤やシラミの隠れた恐ろしさに比べ、戦争の持つ愚かさと狂気と残忍性がボカされている感じですが、人間にとって、最大の恐怖となる病原体を、こういった動物達に仕組んだことで、悪魔のような・・・というのを感じます。

蚤爆弾の他にも、特攻イルカ(それもアメリカ製)とかもあるのだし、そんな兵器に振り回されていた人間社会の愚かさも、戦争による害も、そして、主人公の開き直ったような態度などには、戦争が多くのものの運命を狂わせてきた事を伺わせてくれます。本種にしろ、絶滅した他の種の動物にしろ、人間の詰まらないエゴの為に・・・・・・という考えに行き着いた部分には同情など出来ませんが、戦争の愚かさと空しさ、そして実用化されなくてよかったという部分には、作者の戦争への考え方を伺わせてくれます。

こんな蚤爆弾はもう創られる事はないでしょうが、果たして、今の世界はこんなバカバカしい兵器なんかに気を取られることはないと思いたいのですが・・・・・・。
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