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屍鬼
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読み仮名: しき おのふゆみ / 英語タイトル: SHIKI [Ono Fuyumi]
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屍鬼
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2008/03/30
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asuka
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小野不由美さんの作品で、一番救いのない作品。
スティーブン・キングファンの小野さんが、キングの「呪われた町」に捧げた異例の作品。
私も一時期、スティーブン・キングにはまったけど、この「屍鬼」は、
―――文庫版の解説で、作家の方がこの作品の魅力を満遍なく的確に語っているように―――
これはキングに捧げられていながらキングを超えた、もうひとつの「呪われた町」だと思う。
・
ちなみに、ハードカバー本を買って、あまりに面白くてページを繰る手が止められなくなり、一週間くらいで読破しました。
その後、文庫本まで購入してしまいました。
本当に、文庫版で解説の方が仰っていた通りになりました。
・
・
「屍鬼」の舞台は、それまでの清冽な印象の小野作品とは一転し、燃え上がるような荒々しい、砂と森と炎。
「屍鬼」とは、死を失くした死者、生を失くした死者、
命を奪わずにはいられない、命を失くした死者。
・
誰もが屍鬼になるわけではない、「屍鬼」になる条件がある、という設定が面白い。
それははっきりとは明示されず、「親が起き上がると、その子供も起き上がる確率が高い」という曖昧な説明しかない。
だけど、作品を呼んでいくうちに、「屍鬼」になる条件を備えた人間、
という性格が、なんとなくわかってくるのが面白い。
それは、何か遺伝的なことなのかもしれないけど、作品としては、
ある種の「性格」にあるような書き方をしていると思う。
・
私が思ったのは、屍鬼になる条件を持った人というのは、
心に闇の種を持っていた人、死、以前に、生きることにブレがあった人、
抽象的な言い方をすれば、「死にながら生きている人」という。
作品の中で、登場人物が、屍鬼になったことを、喜びさえする場面がある。
自分は強くなったのだ、解放された、これが本当の自分なのだ、と諸手を上げて歓迎さえする。
それはある意味で、真実なのだ。
・
・
自分自身に、生に、不全さを感じ、どこかで自分は本当に生きていない、
という苛立ちを感じさせていた、自分の生を蝕む、内なる死の種子。
自分の生を蝕んでいた、内なる死が生と逆転する。
生きながら死んでいた者の、内なる死が生になる。
生きながら闇に蝕まれていた人の、闇がその者が目覚める光になる。
・
偽りの生と光の中で、眠り凝っていた、内なる闇が、闇に目覚めて跳梁する時 ―――、
その悲劇と破滅を「屍鬼」は描く。
本当には生きていなかったものが、死んでも本当に死ぬことができず、
死んでも生前と同じ、不完全な生に「起き上がる」、という救いのなさ。
「生きながら死んでいる」が、「死にながら生きている」に逆転しただけでしかない、という残酷さ。
この作品を読んで、人間の業の深さを小野さんは底まで見つめようとして、
未だ底はない、という気がした。
・
ホラーエンタテインメント、ミステリーエンタテインメントでありながら、「本当の死とは」
「本当に生きる」とは、と問いかける。
本当に生きなかったものが、本当に死ぬことができるのか、人はこの世界の、不完全な生と死の中で、
どうしたら本当の生を、死を、手にすることができるのか。
人の本当の救いは、そこにしかないのに。
・
・
屍鬼とは生存することそのものが、他者からの生命の略奪でしか成り立たない。
そのような種族になった本人にとって、自身が生きていること自体が救いがない。
それに慣れて、開き直ることにも救いがない。
生きたい、と願うこと自体が救いがない。
稀に周囲の人間が、そのような形になってでも、「生きて」いて欲しい、
という願いにも、救いがない。
・
神にでも仏にでもすがりたい、人間の願い祈り自体が、業の深い、
神から人間から拒否される、救いのないものでしかない。
屍鬼にとっての救いとは、「本当の死」を与えることでしかない。
「本当の死」 ――― 自分はここにいる、ここにい続けたいと当然に生存を願う、意識の完全な途絶 ―――
という救いのなさ。
その意識がある意味、エゴともいえるわけだけど。
・
屍鬼の存在は、自分の命と他者の命を、否応なく天秤にかける。
そして、自分の命が他者の命より重かったとき、屍鬼は生まれる。
その存在の、罪と業。
それに対応して、聖書的な神話物語が同時進行するのがいっそう哀しい。
・
屍鬼という、人間の天敵となった人間、人間の異端者となった人間の罪業を、人間も、
神も、救うことはできない。
いくら屍鬼を哀れんだとしても、自分の存続のために、屍鬼を殺戮しなければならない闇と業の深さは、
「こちら側」の人間も、屍鬼と等しい。
・
神は、人間の神であるがゆえに、屍鬼を救うことはできない。
神はまた光であるがゆえに、人間の闇も、救うことはできない。
「屍鬼」と名づけられた、人間の心の闇は、絶対的正義である神にとって、
光の楽園から駆逐するべき異端でしかない。
神は光だから。
光は闇を駆逐するものだから。
・
・
何者かに創造されたこの世界の、その何者かとされている造物主の創造物を殺し、
破壊することしかできない人間、という「屍鬼」。
砂子の、静信の、敏夫の、悲鳴のような祈りのようなものは、人間の存在することの意味の、
苦悶の叫びのようだ。
人間そのものが、エゴと破壊の塊でしかない屍鬼であることに苦悶する、人間への世界への、
小野さんの叫びのようだ、と勝手に思う。
・
私自身は、この作品の一番の恐怖は、自分が起き上がったときに、私は自分に開き直るか、
歓迎さえする一人かもしれない、ということ。
人殺しを拒むことは、自分が死ぬこと。
それをやってのけた登場人物を偽善だと感じることは即座に、
自分が生き延びるために、他者を犠牲にすることを許容する精神に、易々と繋がってしまう怖さ。
神も他人も関係ないという、自分勝手な、人間的な打算でしかない狡さ、偽善。
でも、そこで確かに救われるのは、命なのだ。
・
911のテロが起きたとき、敵同士であるはずの、あちら側もこちら側も、どちらも絶対的正義を標榜して同じ言葉、
「異教徒との聖なる闘い」を掲げたとき、まるで、この作品が体現した恐怖が、屍鬼のように、リアルに侵食したかのようだった。
屍鬼だろうと、人間だろうと、判断を神に、誰かに委ねることの疑問。
・
・
神は、彼らを許さない。
人間も、彼らを許さない。
人も神も、彼らには、許しも光も、与えられないのだろう。
だけど、この世界にたった一人、同じ祈りの言葉を持っている人がいるかもしれない。
それが、救いになるわけでもない、ささやかな慰めか、
そんなもの、体のいい犠牲者に堕すだけかもしれない。
だけど、闇の闇の底の砂子の心にその言葉が届いて、ほんのわずかの涙を流すとき、
炎と砂で干上がった心の闇に、束の間、命がほの見えた気がする。
・
・
神ではなく、人が人にできることの、あまりもの小ささ、
人の手は、圧倒的な闇の中に、月光のような、ほんの小さな灯りを灯すことくらいしかできない。
その瞬間に魂の闇に閃く、束の間の光、人の命の光。
この作品の描く、心の闇の中に束の間閃く、痛ましいほど尊い、人の心の光。
人間の闇と光。
それが、世界の、物語の、全てなのだと思う。
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だれもお前に教えてくれなかったのか?
見知らぬ人を招いてもいいのは、食事の方だ。
死ではないのだよ。
かれは唄をうたうだろう。
ある日、おれも招かれた。
だけど、ともに生きようとはいわれなかったぞ。
いっしょに死のうと誘われたんだ。
そんなふうに、うたうだろう。
・
誰もその死の村を忘れることはないだろう。
かれらはみんなで、死の村の人々が農場の畑にさえも死を植えた、とうたうだろう。
畑にまで死を植えたのだから、収穫のときは死を刈り入れる、と。
・
だけど、こういう死はひどい、とかれらはいった。
こんな死はなにかべつのものだぞ。
人間ってのは、きちんと死ぬべきものだからな。
これはいったいどんな死なんだろう、ちっとも手を休めることをしない死なんてはじめてだ。
これはどんな死なんだろう、まったく恥知らずの死ではないか ?
とかれらはいぶかしんだ。
「影たち」チェンジェライ・ホーヴェ
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