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屍鬼


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読み仮名: しき おのふゆみ / 英語タイトル: SHIKI [Ono Fuyumi]
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漫画:屍鬼

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2008/03/30 とても良い [編集・削除/削除・改善提案/論客限定表示/]
by asuka 評価履歴[良い:16(94%) 普通:1(6%) 悪い:0(0%)] / プロバイダー: 8142 ホスト:7883 ブラウザー: 8901
小野不由美さんの作品で、一番救いのない作品。

スティーブン・キングファンの小野さんが、キングの「呪われた町」に捧げた異例の作品。

私も一時期、スティーブン・キングにはまったけど、この「屍鬼」は、

―――文庫版の解説で、作家の方がこの作品の魅力を満遍なく的確に語っているように―――

これはキングに捧げられていながらキングを超えた、もうひとつの「呪われた町」だと思う。



ちなみに、ハードカバー本を買って、あまりに面白くてページを繰る手が止められなくなり、一週間くらいで読破しました。

その後、文庫本まで購入してしまいました。

本当に、文庫版で解説の方が仰っていた通りになりました。




「屍鬼」の舞台は、それまでの清冽な印象の小野作品とは一転し、燃え上がるような荒々しい、砂と森と炎。

「屍鬼」とは、死を失くした死者、生を失くした死者、

命を奪わずにはいられない、命を失くした死者。



誰もが屍鬼になるわけではない、「屍鬼」になる条件がある、という設定が面白い。

それははっきりとは明示されず、「親が起き上がると、その子供も起き上がる確率が高い」という曖昧な説明しかない。

だけど、作品を呼んでいくうちに、「屍鬼」になる条件を備えた人間、

という性格が、なんとなくわかってくるのが面白い。

それは、何か遺伝的なことなのかもしれないけど、作品としては、

ある種の「性格」にあるような書き方をしていると思う。



私が思ったのは、屍鬼になる条件を持った人というのは、

心に闇の種を持っていた人、死、以前に、生きることにブレがあった人、

抽象的な言い方をすれば、「死にながら生きている人」という。

作品の中で、登場人物が、屍鬼になったことを、喜びさえする場面がある。

自分は強くなったのだ、解放された、これが本当の自分なのだ、と諸手を上げて歓迎さえする。

それはある意味で、真実なのだ。




自分自身に、生に、不全さを感じ、どこかで自分は本当に生きていない、

という苛立ちを感じさせていた、自分の生を蝕む、内なる死の種子。

自分の生を蝕んでいた、内なる死が生と逆転する。

生きながら死んでいた者の、内なる死が生になる。

生きながら闇に蝕まれていた人の、闇がその者が目覚める光になる。



偽りの生と光の中で、眠り凝っていた、内なる闇が、闇に目覚めて跳梁する時 ―――、

その悲劇と破滅を「屍鬼」は描く。

本当には生きていなかったものが、死んでも本当に死ぬことができず、

死んでも生前と同じ、不完全な生に「起き上がる」、という救いのなさ。

「生きながら死んでいる」が、「死にながら生きている」に逆転しただけでしかない、という残酷さ。

この作品を読んで、人間の業の深さを小野さんは底まで見つめようとして、

未だ底はない、という気がした。



ホラーエンタテインメント、ミステリーエンタテインメントでありながら、「本当の死とは」

「本当に生きる」とは、と問いかける。

本当に生きなかったものが、本当に死ぬことができるのか、人はこの世界の、不完全な生と死の中で、

どうしたら本当の生を、死を、手にすることができるのか。

人の本当の救いは、そこにしかないのに。




屍鬼とは生存することそのものが、他者からの生命の略奪でしか成り立たない。

そのような種族になった本人にとって、自身が生きていること自体が救いがない。

それに慣れて、開き直ることにも救いがない。

生きたい、と願うこと自体が救いがない。

稀に周囲の人間が、そのような形になってでも、「生きて」いて欲しい、

という願いにも、救いがない。



神にでも仏にでもすがりたい、人間の願い祈り自体が、業の深い、

神から人間から拒否される、救いのないものでしかない。

屍鬼にとっての救いとは、「本当の死」を与えることでしかない。

「本当の死」 ――― 自分はここにいる、ここにい続けたいと当然に生存を願う、意識の完全な途絶 ―――

という救いのなさ。

その意識がある意味、エゴともいえるわけだけど。



屍鬼の存在は、自分の命と他者の命を、否応なく天秤にかける。

そして、自分の命が他者の命より重かったとき、屍鬼は生まれる。

その存在の、罪と業。

それに対応して、聖書的な神話物語が同時進行するのがいっそう哀しい。



屍鬼という、人間の天敵となった人間、人間の異端者となった人間の罪業を、人間も、

神も、救うことはできない。

いくら屍鬼を哀れんだとしても、自分の存続のために、屍鬼を殺戮しなければならない闇と業の深さは、

「こちら側」の人間も、屍鬼と等しい。



神は、人間の神であるがゆえに、屍鬼を救うことはできない。

神はまた光であるがゆえに、人間の闇も、救うことはできない。

「屍鬼」と名づけられた、人間の心の闇は、絶対的正義である神にとって、

光の楽園から駆逐するべき異端でしかない。

神は光だから。

光は闇を駆逐するものだから。




何者かに創造されたこの世界の、その何者かとされている造物主の創造物を殺し、

破壊することしかできない人間、という「屍鬼」。

砂子の、静信の、敏夫の、悲鳴のような祈りのようなものは、人間の存在することの意味の、

苦悶の叫びのようだ。

人間そのものが、エゴと破壊の塊でしかない屍鬼であることに苦悶する、人間への世界への、

小野さんの叫びのようだ、と勝手に思う。



私自身は、この作品の一番の恐怖は、自分が起き上がったときに、私は自分に開き直るか、

歓迎さえする一人かもしれない、ということ。

人殺しを拒むことは、自分が死ぬこと。

それをやってのけた登場人物を偽善だと感じることは即座に、

自分が生き延びるために、他者を犠牲にすることを許容する精神に、易々と繋がってしまう怖さ。

神も他人も関係ないという、自分勝手な、人間的な打算でしかない狡さ、偽善。

でも、そこで確かに救われるのは、命なのだ。



911のテロが起きたとき、敵同士であるはずの、あちら側もこちら側も、どちらも絶対的正義を標榜して同じ言葉、

「異教徒との聖なる闘い」を掲げたとき、まるで、この作品が体現した恐怖が、屍鬼のように、リアルに侵食したかのようだった。

屍鬼だろうと、人間だろうと、判断を神に、誰かに委ねることの疑問。




神は、彼らを許さない。

人間も、彼らを許さない。

人も神も、彼らには、許しも光も、与えられないのだろう。

だけど、この世界にたった一人、同じ祈りの言葉を持っている人がいるかもしれない。

それが、救いになるわけでもない、ささやかな慰めか、

そんなもの、体のいい犠牲者に堕すだけかもしれない。

だけど、闇の闇の底の砂子の心にその言葉が届いて、ほんのわずかの涙を流すとき、

炎と砂で干上がった心の闇に、束の間、命がほの見えた気がする。




神ではなく、人が人にできることの、あまりもの小ささ、

人の手は、圧倒的な闇の中に、月光のような、ほんの小さな灯りを灯すことくらいしかできない。

その瞬間に魂の闇に閃く、束の間の光、人の命の光。

この作品の描く、心の闇の中に束の間閃く、痛ましいほど尊い、人の心の光。

人間の闇と光。

それが、世界の、物語の、全てなのだと思う。

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だれもお前に教えてくれなかったのか?

見知らぬ人を招いてもいいのは、食事の方だ。

死ではないのだよ。

かれは唄をうたうだろう。

ある日、おれも招かれた。

だけど、ともに生きようとはいわれなかったぞ。

いっしょに死のうと誘われたんだ。

そんなふうに、うたうだろう。



誰もその死の村を忘れることはないだろう。

かれらはみんなで、死の村の人々が農場の畑にさえも死を植えた、とうたうだろう。

畑にまで死を植えたのだから、収穫のときは死を刈り入れる、と。



だけど、こういう死はひどい、とかれらはいった。

こんな死はなにかべつのものだぞ。

人間ってのは、きちんと死ぬべきものだからな。

これはいったいどんな死なんだろう、ちっとも手を休めることをしない死なんてはじめてだ。

これはどんな死なんだろう、まったく恥知らずの死ではないか ?

とかれらはいぶかしんだ。

「影たち」チェンジェライ・ホーヴェ

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